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放射線照射部位の放射線性皮膚炎に対するセルフケアの有効性

10月 13, 2016

放射線照射部位の放射線性皮膚炎に対するセルフケアの有効性

船橋市の内科

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声門癌の化学療法と放射線治療目的で入院した70代独居男性、自分のことは自分で決めて行うという意志の強い方である。放射線治療と化学療法目的にて入院となる。妻と死別し独居である。近隣に子供が住んでいるが、できるだけ迷惑をかけたくない、自分のことは自分でやりたいと考えている。セルフケアの支援を行う事で放射線性皮膚炎に対し看護介入できるのではないかと考えた。後藤1)は、放射線性皮膚炎について「外照射では症状の出現を避けることは難しい。また根治的な治療法もなく対症療法が中心であり、エビデンスにもとづいたケア方法も確立していない。しかし、リスクを予測し、皮膚の観察を行い、セルフケア支援を行うことで発現を遅らせたり、症状の悪化を防いだりすることが可能である」と述べている。また、セルフケアについて堀川2)は、「適切な情報提供は、最も基本的で、最も重要な対応である」と述べている。頸部への放射線照射により照射部位に皮膚炎が出現する可能性がある。頸部発赤、皮膚剥離の悪化予防をしたい。放射線照射総量管理、放射線照射部位、背部の皮膚発赤、掻痒感、疼痛、水疱の有無、程度をマネジメントする。食事量、栄養状態(TP、Albなどの血液状態)のマネジメント。入浴後放射線照射部位にヒルドイドローションを塗布し皮膚の乾燥を予防する、放射線照射部位にアズノール軟膏を塗布する、放射線照射前にアズノール軟膏を洗い流す為に入浴時間を午前9時30分に固定する、皮膚炎による疼痛出現時は冷却を実施するといった対応が考えられる。放射線照射部位を傷つけたり、テープ、湿布は使用しない、放射線照射部位の皮膚は擦らないようにし、軟膏を洗い流す際にはミセルで愛護的に洗浄する、皮膚が擦れないように襟の詰まった服装は避ける、食事のときは塊がなくなるまでよく咀嚼し嚥下することで咽頭への刺激を抑えられることを説明するといった対応もあるだろう。放射線治療開始後、(放射線総量10~20Gy)で3日目では照射部位の皮膚発赤、掻痒感、疼痛は出現していない。放射線治療を継続していく。放射線治療が進むにつれて照射部位の皮膚が乾燥し些細な刺激で炎症を起こしやすくなるため、乾燥予防の為にローションを使用する。自分でローションを塗布している。その他にも嚥下時痛の出現の可能性があり、痛くなる前の対処が必要である。有害作用が出現したら食事もとることが難しくなる。その時は流動食の摂取のために鼻から管を入れたりしないといけなくなる。頸部に軽度の発赤が出現している。掻痒感、疼痛はない。医師からアズノール軟膏を処方され、洗面台の前で鏡を見ながら塗布の仕方を説明する。指でこすらずにアズノール軟膏を置くように塗布し、放射線照射時にはアズノール軟膏を洗い落とした状態で治療を受ける必要があることを説明した。入院中は風呂に毎日入っていなかったため朝9時30分に入浴時間を固定し必ず入浴するように説明した。説明後A氏は「風呂に入って軟膏を落としてから治療を受けて、それからこの薬(アズノール軟膏)を塗るんだね」と毎日入浴するようになり、放射線治療後はアズノール軟膏を塗布するようになった。疼痛については出現していないため大丈夫と話す。食事については、咽頭痛や嚥下時痛は出現していないが、今後有害作用を軽減させるためにもできるだけ良く噛んで食べることを説明する。頸部発赤が悪化し皺に限局した表皮剥離。疼痛は頸部を後屈させる動きをしたり病衣が擦れたりすると出現する。アズノール軟膏塗布を継続している。病衣が擦れないように病衣の襟ぐりを広げて首に当たらないようにしている。放射線治療終了後もアズノール軟膏の塗布は継続。放射線治療が終了したが頸部発赤は継続している。放射線性皮膚炎について、藤本3)は「リスクのある症例に対しては、適切なセルフケアを実施することで、放射線皮膚炎の出現の時期を遅らせたり、症状悪化の防止、また早期回復を促すこととなる」と述べている。今回のA氏の例でも、皮膚発赤は出現しているが、毎日の入浴で清潔を保ち、放射線治療終了後のアズノール軟膏の塗布を継続することにより放射線治療終了時の時点での放射線性皮膚炎はGrade2(中等度から高度の紅斑:ほとんどが皺に限局したまだらな湿性落屑)にとどめることができたのではないかと考えられる。看護師のセルフケアへのアプローチについて堀川4)は「漠然とした説明・指導や、矢継ぎ早に課題を与えること、「ちゃんとするのが当たり前」「あなたのため」などという発言は避けた方がいい」と述べている。また、辻井5)は、有害反応への患者の不安について放射線皮膚炎は出現していなかったが、「放射線治療が進むにつれて照射部位の皮膚が乾燥し些細な刺激で炎症を起こしやすくなるため、乾燥予防の為にローションを使用することが必要」と具体的に説明していた。

引用文献

1)後藤志保ほか:がん放射線療法ケアガイド,中山書店,107,2013.
2)、4)堀川直志ほか:JINスペシャル“困った患者さん”へのアプローチ,医学書院,70,2000.
3)藤本美生ほか:がん放射線治療の理解とケア,学研,127,2007.
5)辻井博彦ほか:がん放射線治療とケア・マニュアル,医学芸術社,101,2003.

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