循環器内科

乳酸加リンゲルは重症患者の死亡率の減少と急性腎障害の減少と関連している:レトロスペクティブコホート分析

5月 29, 2017

Lactated Ringer Is Associated With Reduced Mortality and Less Acute Kidney Injury in Critically Ill Patients:A Retrospective Cohort Analysis

心臓病内科

心臓病内科

Fernando G. Zampieri et al

Critical Care Medicine 2016; 44 : 2163-2170

静脈輸液は、重症患者の管理において常に目にするものである。タイミング、量、タイプ(晶質液?vs?膠質液)など輸液療法は世界中で注目を浴びているが、膠質液よりも晶質液が優ると報告された。本当に最近になって、大規模観察研究や無作為比較研究が行われ、重症患者におけるバランス輸液の影響について評価されつつある。

低Cl濃度と強イオンをもつ輸液は、血漿に近い溶液であり、“バランス輸液”と言われてきた。乳酸加リンゲル液(Lactated?Ringer?;?LR)は、生食(normal?saline?;?NS)と同様に古くから使用されている輸液製剤であり、バランス輸液の一つである。血漿よりも低いCl濃度をもつ輸液(5%Glu(dextrose?5%?in?water?;?D5W)やハーフ生食(half?NS?;?hNS))は、強イオンが低いため、酸塩基状態に悪い影響を与えると考えられており、非バランス輸液はAKIの発症リスクを高めると言われている。しかし、過去の研究では、例えば外傷、SIRS、sepsis、腎移植後、術後患者など特別な患者群でしか検討していない。一つの中規模無作為比較研究が、低リスクの患者においてバランス輸液は、生存率・AKI発症率いずれにおいても優位性はなかったとしたが、患者は多種多様な空間で(ER、手術室、ICUなど)、色んな理由で(薬物、栄養、蘇生など)輸液療法を行った患者を対象とした、単施設研究であった。1人の患者に、様々な種類の輸液療法がなされ、各輸液製剤による臨床的な違いを同定するのは困難であり、治療効果を仮設して検討するにしても、多分数千のサンプルが必要だろう。

そこで我々は、LRの影響を、ICU入室2日目までの全輸液量に対するLRが占める割合(%LR)を用いて、院内死亡率とAKI発症率を、10,000人を超えるデータベースをもとに検討を行った。AKIは、輸液療法後に発症したことを確実にするため、評価を、ICU入室から48時間以降に発症したAKIに限って検討を行った。我々は、高い%LRは良好な転機につなが、と仮説した。また、%LRとICU2日間の全輸液量の関係が院内死亡率に与える影響を評価し、PCA(principal?component?analysis)を適用して、頻用される各輸液(LR、NS、hNS、3%NaCl)がそれぞれ死亡率に与える影響を評価しようと考えた。

METHODS

☆Population?and?Inclusion?/?Exclusion?Criteria

MIMIC-Ⅱ(the?Multiparameter?Intelligent?Monitoring?in?Intensive?Care)のデータベースを用いた。MIMIC-Ⅱ内で利用可能な成人は全て抽出し、以下を除外した。ICUを2日以内に退出した患者、入院時の血清クレアチニン値が5mg/dlを超える患者、ICU入室2日の総輸液量が500ml以内の患者。また、AKIの評価では、輸液療法を始める前からの腎機能障害を除外するため、ICU入室2日以内にAKIのクライテリア(血清クレアチニン値が50%以上増加、尿量<0.5ml/BWkg/時間)を満たすものは除外した。ベースのクレアチニン値は、入院時のデータとした。

☆Variables?Measured?and?Calculated

入院時の診断名は、ICD-9に準じた。また、患者の重症度はSAPS、SOFAで評価した。BE、pH、血清Na、Clを入院時とICU入室3日目に評価した。

輸液製剤は、NS、hNS、3%NaCl、LR、Hextend(ヒドロキシエチルでんぷん)、D5Wの投与量をデータベースより抽出した。総輸液量(total?measured?fluid?volume;?TMFV)、TMFV中のLRの割合を%LR、また、全Cl投与量/TMFVをVACL(volume-adjusted?Cl?load)とし、抽出した。

ICD-9による診断名の抽出は、sepisisの有無の抽出のために行った。ICD-9において、0.30、020.0、790.7、117.9、112.5、112.81、995.92はsepsisとして扱った。

☆Outcome?Definitions

死亡率は院内死亡率として検討を行った。AKIは、ICU入室3~7日までに、KDIGOカテゴリー2?or?3となった患者、もしくは腎代替療法が必要となった患者とした。生存率を分析するため、全ての患者を発症後90日間まで追って検討を行った。

☆Statistical?Analysis

院内死亡の有無で分類した。変数は、Kolmogorov-Smirnov検定を用い、パラメトリックな変数はt検定、ノンパラメトリックな変数はMann-Whitney?検定を用いた。カテゴリー化した変数は、chi-square検定を用いた。また、%LRが死亡率、重症AKI発症に与える栄養を評価するため、2つのロジステッィク回帰分析を行った。その項目は、年齢、体重、性別、基礎疾患(HT、DM、悪性疾患、肝疾患、心不全)、SAPS、SOFA、unit?type、ICD-9、sepsisの有無、TMFV、入院時BE、入院時クレアチニン値、%LR、VACLとした。全ての検討において、p値<0.05を有意とした。また、%LR、TMFV、VACLのスプライン曲線を描いた。また、TMFVと%LRの関係がどのように死亡率に影響を与えるかを、separate?generalized?additive?modelを用いて検討を行った。直線的に表せられない相関も検討に加えるため、tensor?effectを適用し、ロジステッィク回帰分析も含め、全ての項目で評価した。また、%LRを四分位法で分けて検討を行った。また、90日間の生存率を検討するため、%LR、unit?type(surgical?or?nonsurgical)、SAPS、VACL、TMFVをCox?regression検定を行った。

TMFV、輸液製剤の種類、VACL、重症度に相関があると予測して、PCAを用いて検討を行った。各輸液製剤が死亡率、疾患のコントロールにどのように独立して影響を与えたかを評価するのが狙いである。この検定には、以下の項目を変数として扱った。尿量(urine?output;?UO)、TMFV、SAPS、VACL、各輸液製剤の総量(全輸液量の5%以上投与されていたらカウントした)。TMFVとUOは、分析前に体重比を出した。PCAの詳細な方法は別紙の通り。

加えて、3つの感度分析を行った。一つ目は、unit?type(surgical?or?nonsurgical)で、院内死亡率をprimary?endpointとしたメインのロジステッィク回帰分析を繰り返した。二つ目は、unit?type、SAPS、TMFV、%LRは死亡率の予測因子になりえるのか、mixed?modelにあてはめて、感度分析を行った。3つ目は、サブグループ解析として、VACLが生理的濃度と同様の100~110?mEq/lである群に限定して、%LRと院内死亡率の関係を検討した。こちらの詳細も別紙の通り。

抽出し得なかったデータは、e-Table?1に応じた値をあてた。全ての分析は、AmeliaⅡ、rms、ggplot2、mgcv、lme4、ggbiplotによるR?projectを用いた。

RESULTS

クライテリアを満たした、10249人が死亡率の検討に、8085人がAKI発症率の検討に抽出された(e-Fig.1)。

☆Mortality?Analysis

院内死亡率は13.8%(1,422人)であった。生存群と死亡群の一般特性とその比較はTable.1のとおり。各輸液製剤による院内死亡の割合はFig.1に示した。生存群は、多くのLRを、また少ないNS、D5Wを投与されている傾向にあることがわかった。e-Fig.2は、TMFVを四分位法で4分割し、それによる%LR投与量の傾向をみたものである。ヒドロキシエチルでんぷん製剤はあまり頻用されておらず、使用された患者の95%は術後であった。ロジステッィク回帰分析による死亡率の分析はTable.2に示した。%LRが死亡率に与える影響は直線的でなく(Fig.2)、%LRが50%に至るまでは低い院内死亡率と相関していた。TMFVは高い院内死亡率と正の相関があった(e-Fig.3)。VACLは院内死亡率とは相関しなかった(e-Fig.4、p=0.066)。四分位法で4分割された各TMFV群において、%LR=75と%LR=25でodds?ratioを出したものをe-Fig.5に示した。25%から75%への%LRの増加はいずれのTMFV群でも死亡率が低くなる傾向にあり、>7,155mlの4つ目のTMFV群においては、odds?ratioが0.50であった(95%CI:0.32-0.79、p<0.001)。

Tensor?effectの結果はe-Fig.6に示した。高い%LRと低い院内死亡率の相関は、TMFVが高値なほど強いことがわかった。高い院内死亡率を最も引き起こすのは、TMFV高値と低い%LRであることがわかった。これらの結果はe-Fig.5でも同様に示されている。

感度分析の結果も別紙に示した。Surgical?vs?nonsurgicalのロジステッィク回帰分析は、e-Tab.2と3に示した。どの輸液製剤を用いたか、surgicalとnonsurgicalで分けて示したものがe-Fig.7である。LRはsurgicalの患者により高い頻度で使用されていた。高い%LRが院内死亡率を下げることは、どちらの群でも同様であった(e-Fig.8)。e-Fig.9は、mixed?model?analysisの結果を示したもので、これまでの結果と同様に、TMFV高値と低い%LRはより院内死亡を引き起こすことがわかった。これは、%LR別にunit?typeと院内死亡率を検討しても、同様であることがわかった(e-Fig.10)。VACLを生理的濃度(100~110?mEq/l)に限って行った検討でも同様に、%LRが高くなると院内死亡率が低くなることが示された(e-Fig.11)。

90日間生存の分析では、%LR、SAPS、TMFV、nonsurgical?unit、基礎疾患が関係していることが分かった(e-Tab.5)。%LRが1%増加するハザードratioは0.97だった。VACLは90日間生存に関与していなかった(p=0.496)。高い%LRと低い院内死亡率の相関は、ICU入室してから14日間以内に最も強く認められた(e-Fig.12)。

☆AKI?Analysis

ステージ2、3のAKIは2.5%の患者(204人)に認められた。AKIを発症した患者のうち、45%(91人)が腎代替療法を必要とした。AKIの発症の有無で検討を行ったものをe-Tab.6に示した。AKIを発症した患者は、少ないLR、多いD5Wを投与されている傾向にあり、NS投与の割合は、AKI群と非AKI群で変わらなかった(e-Fig.13)。多変量ロジステッィク回帰分析を行った結果がe-Tab.7で、%LRはAKI発症に直線的に正の相関があり(e-Fig.14)、VACLはAKI発症に関与しなかった。

☆PCA?for?Mortality

PCAは、LR、NS、hNS、D5Wの投与量と、SAPS、TMFV、VACLを変数として行った。各PC群の結果をTab.3に示しており、詳細は別紙に示している。PC1、3、4は死亡率と相関なく、PC2のみ正の相関を示した(e-Fig.16)。e-Fig.17と18にプロットを示してある。PCAの中で、LRとNSは反対の傾向を示している(Tab.3)。PC1はD5Wが多い傾向にあり、PC2は、NSが多い。PC3はhNSとLRが多い傾向にあるが、両者は反対のベクトルを示している。PC4は尿量により主に決定づけられている変数である。

DISCUSSION

重症患者において、ICU入室2日以内に投与された輸液に、乳酸加リンゲル液が占める割合が多いと、院内死亡率を低くし、ICU入室から5日以降のAKI発症率を下げることがわかった。更に、90日間生存率もあげることがわかった。PCAでは、各輸液に焦点をあて、院内死亡率の統計を行ったが、NSは死亡率を上げ、LRは下げることがわかった。感度分析では%LRの効果はどのunit?typeでも同様であることが示された。

ICUにおいてどの輸液製剤を選択するかは、簡便で、かつよく熟考されなければならない治療介入である。乳酸加リンゲル液の割合が高いと、代謝、酸塩基状態に与える影響だけでなく、Cl濃度へ与える影響もあり、利益は多い。それゆえに、ここ数年、ICUにおける輸液の選択に、議論が再興していることは驚くことではない。我々の研究は、その議論に新たなエビデンスを提供できたに違いない。この研究は、各輸液製剤が予後に与える影響を、PCAをを用いて、製材別に検討した初めてものである。また、蘇生の初期段階におけるAKIの発症率についても検討を行った。

もう一つの興味深い点として、乳酸加リンゲル液の占める割合と総輸液量の関係である。この関係は、%LRが50%でプラトーとなる(Fig.2)。%LRとTMFVに焦点をあてたtensor?effect?analysisでは、ICU入室から48時間以内に投与された総輸液量が少ない患者は、多い患者と比較して、%LRの効果が低いことがわかった。つまり、%LRの効果は、総輸液量に依存するということである。TMFVが10Lより少ない場合、%LRを増やしても院内死亡率は変化ない(e-Fig.6)。輸液量が多くなると、%LRが高いと死亡率は低くなる傾向にある。言い方を変えれば、大量輸液が必要な患者の院内死亡率は、輸液製剤の選択により、変わる可能性があるということである。e-Fig.5でも、TMFVが2日間で7155mlを超えると、%LRが25%と75%では有意差をもって、死亡率が異なることが示されている。つまり、%LRの効果はTMFVに大きく依存するところであり、今後の無作為比較研究では、投与量の違いも含めた各輸液製剤の検討が望まれる。

また我々は、PCAを用いて、ICU入室から48時間以内の輸液製剤の選択について警告を発することができた。我々は、PCAにCl濃度も含めて検討したが、バランス輸液はVACLを減らすことにより、何かしらの良いメカニズムが働いているに違いないと考えたからである。実際、生食と乳酸加リンゲル液は常に反対のベクトルを向く傾向にあった(Tab.3)。非バランス輸液(D5W[PC1]、NS[PC2]、hNS[PC3])は高い院内死亡率を示しており、乳酸加リンゲル液は生存率をあげる傾向にあった[PC2]。VACLはいずれのPCでも死亡率に影響を及ぼさない結果となったが、統計上の計算で矛盾が生じたものと考えている。Shawらの研究とちがい、我々は250ml以下のVACLをのぞいておらず、それゆえに高い比率となってしまっているのかもしれない。また、VACLが100~110mEq/lに限定して検討を行ったが、%LRは同様に死亡率に相関していた。このことから考えると、輸液製剤の効果を決定づけるのは、Cl濃度よりも強イオン濃度の違いである可能性も、我々は提示できる。

我々の研究にはいくつかのlimitationがある。まず、この研究が単施設によるものということあり、多様性に欠ける可能性がある。しかし、我々の研究結果は、過去の研究と矛盾するものではない。また、%LRの効果を重症患者でしか検討していない。更に、AKIの発症を、輸液療法前のAKIを除くためとは言え、ICU入室から3~7日でしか評価していない。つまり、乳酸加リンゲル液のAKI発症初期に与える影響は評価出来ていないことになる。また、我々は、ICUでは非常によく使用される、アルブミン製剤、血液製剤、炭酸水素ナトリウム製剤による影響を省いている。

CONCLUSIONS

重症患者において、ICU入室から2日以内の総輸液量に占める乳酸加リンゲル液の割合が高いと、院内死亡率を下げ、更にICU入室から3~7日のAKI発症率を下げることがわかった。この%LRの効果は、7L以上の総輸液量で更に強くなることも分かった。

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