循環器内科

脚気心。長期の白米のみの摂取で生じる。

2月 3, 2018

脚気心。長期の白米のみの摂取で生じる。

心臓病内科

心臓病内科

症例:患者27歳、男性

主訴:全身の浮腫、呼吸困難

既往歴:特記事項なし

家族歴:特記事項なし

現病歴

201Z年X月中旬より下腿浮腫が出現し、Y月から脱力、呼吸困難を自覚。症状増悪したためA月B日に当院救急外来を受診。造影CT施行し、急性肺血栓塞栓症と診断され1週間の入院加療(リクシアナ内服)で症状軽快したため退院となった。しかし再度症状増悪し、二度当院受診するも下肢静脈に血栓を認めずイグザレルト内服で経過観察の方針となった。201C年D月E日に再度呼吸困難の訴えあり救急要請し当院へ搬送となった。

入院時現症

身長175㎝ 体重88.1㎏(3か月で12㎏増加)
血圧106/55mmHg 脈拍100回/分、整 呼吸数40回/分 SpO2:100%(room air)
意識清明 顔面、両下腿に著明な浮腫あり 眼瞼結膜貧血なし 頸静脈怒張
心音・肺音に異常なし

検査所見

血液検査:WBC 7100/μl RBC 329万/μl Hb 11.8g/dl D-dimer 2.54μg/ml
AST 22IU/l ALT 12IU/l LDH 398IU/l Alb 4.0g/dl T-Bil 1.9mg/dl CK 499IU/l
UN 14mg/dl Cr 1.17mg/dl Na 133mEq/l K 4.1mEq/l Cl 96mEq/l Free-T4 0.78
TSH 3.390
<ABG(room air)>
pH 7.578 pCO2 14.7mmHg pO2 95.9mmHg HCO3 13.4mmol/l
BE -5.7mmol/l Lac 8.1mmol/l(正常値0.5-1.6mmol/l)
胸部X線写真:軽度肺うっ血あり 肺門部血管陰影増強 CTR59%
心電図:HR120bpm 整 洞調律 低電位
経胸壁心エコー:LVDd:56mm LVDs:35mm EF67% IVC27mm 呼吸性変動(-)
両側胸水(+) TPG46mmHg Moderate TR LV圧排(+) 心嚢液貯留
入院時造影CT:肺動脈血栓なし 主要動脈に塞栓なし 静脈塞栓なし

臨床経過

臨床症状と心エコー所見から肺動脈血栓塞栓症の再発を疑ったが、肺血流シンチでも明らかな塞栓を認めなかった。入院後XX日目頃より呼吸困難が増悪し、血液ガス分析で酸素化不良(pO2:66mmHg, pCO2:40mmHg)となったため、右心カテーテルを施行したところ、高拍出性心不全の状態であると判明した(BP197/117mmHg HR62bpm CO8.67 CI4.16)。乳酸アシドーシスや食歴から脚気心を疑い、即座に点滴でビタミンB1投与を行ったところ数日で症状改善し、また血液検査でもビタミンB115ng/mlと低値を認めたため、脚気心と最終診断に至った。軽度心機能低下は残存していたが、症状改善したため入院後XX日目に退院となった。

考察

脚気心は現在では稀な疾患であり、臨床症状と心エコー所見が肺動脈血栓塞栓症と類似することもあり診断が困難な場合が多いが、高拍出性心不全を認める際にはその鑑別の一つとして挙げられ、詳細な病歴聴取が重要になる。本例では初回入院時には不明であったが、長期に渡る白米のみの摂取が今回の原因と考えられた。致死的な劇症型の脚気心(衝心脚気)を呈することもあり早期の治療介入が必要である。

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