内科

膝または股関節形成術後の術後外科手術部位感染症に対する新生対全身麻酔の影響

1月 24, 2017

膝または股関節形成術後の術後外科手術部位感染症に対する新生対全身麻酔の影響

The Impact of Neuraxial Versus General Anesthesia on the Incidence of Postoperative Surgical Site Infections Following Knee or Hip Arthroplasty: A Meta-Analysis.

Reg Anesth Pain Med. 2016 Sep-Oct;41(5):555-63.

船橋市の内科

内科

膝関節形成術(KA)および股関節形成術(HA)は世界的にも一般的な整形外科の手術である。比較的安全とされているが、いくつかの術後合併症が報告されている。その中でも手術部位感染(SSI)は頻度の高いものである。SSI発生のリスク因子は、患者個人や周術期に関連する要素など様々な報告がされてきた。その中には、麻酔法のようにSSIの発生率を変化させ得る、変更可能な要因がいまだ残っている。術後SSIの減少における脊柱管麻酔の役割ははっきりしていない。最初の観察的研究では、全身麻酔に比べ脊柱管麻酔の使用は著明にKA・HA術後SSIの発生率を減少させると結論づけた。しかし、その後の研究では矛盾する結果が得られている。

関節形成術後の合併症に関する、多くの研究では感染性疾患についての情報が欠落していたり、麻酔法自体に関連するデータが得られない。今までのKA・HA術後SSIのリスク因子に関する研究のメタ分析の中に、麻酔法と術後SSIとの関連性について分析しているものはなかった。そこで著者らは、この潜在的な関連性を明確にするために利用可能な全ての研究のメタ分析を行った。

METHODS

検索法

麻酔法とKA または HA 後の SSI との関連性について1990 年から2015 年の間に報告されたすべての研究を、MEDLINE、EMBASE、Google Scholar で検索した。

(keyword:infection,surgical site infection/knee arthroplasty,hip arthroplasty/anesthesia,neuraxial anesthesia,general anesthesia)

研究識別と選別

脊柱管麻酔と全身麻酔をKA・HA術後SSIのリスク因子として扱っている研究が分析対象に含まれる。この研究の目的のため、今回 硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔もしくはその2つを併用したものを脊柱管麻酔とした。

KA・HA術後の患者を対象としていない研究や麻酔法がSSIと関連していると仮定していない研究・動物を対象とした研究・主に1つの麻酔法を使用したKA・HA術後のSSIの割合のみを評価した研究は除外基準とした。また、同じ患者や同じデータベースを対象としたものは包括し、KAのみ・HAのみ・その両方の3つの基準に分類された。

データ抽出

それぞれの研究について、著者・発表した年・地理的な地域・研究デザイン・サンプルサイズ・関節形成術の種類・SSIの定義や術後SSIの発生率に関してメタ分析を実施し、プール(再分析)された未調整オッズ比(OR)とランダム効果モデルを用いた調整済みオッズ比(aOR)の両方を推定した。

定義

SSI:研究によって多少の変化はあるが、最も多く使用されていたのがCDC(Centers for Disease Control and Prevention)基準とICD-9-CMであった。

質の評価

研究の質の評価は、Methodological Index of Nonrandomized Studiesを使用した。最大値は22で、18以上は質の高い研究として、10~17は中等度、10以下の研究を除外とした。

統計学的分析

サブ群解析とメタ回帰を実施して、異質性とバイアスの潜在的原因を調査した。

RESULTS

まず、最初に5231 件の文献が検索された。レコードのうち、13 件の研究(n=362029)が選択基準を満たした。(figure.1)

未調整(OR= 0.77、95%信頼区間[CI]、0.70~0.86、P<0.001)と調整済み(aOR=0.84; 95%CI、0.76~0.92、P<0.001)データに基づいて、全ての膝・股関節形成術における脊柱管麻酔の使用は全身麻酔と比較して、術後 SSI の発生率の有意な減少と関連していた。(figure2/3)

サブ群解析では、KA(OR=0.75、95%CI、0.68~0.84;P<0.001; aOR=0.85 ; 95%CI、0.79~0.92; P<0.001)においては、術後 SSI の発生率の同様の減少を示したが、 HA(OR=0.79; 95%CI、0.65~0.95、P=0.02; aOR=0.84; 95%CI、0.71~1.00、P=0.057)では示さなかった(figure4/5)

DISCUSSION

著者らの研究は、麻酔法とKA・HA術後のSSI発生に関する初めてのメタ分析である。
サブ群解析も含めて、関節形成術(KA と HA)後の SSI の発生率を低下させる事に関して脊柱管麻酔の有効性を支持している。
関節形成術後SSIの発生率はKAにおいて0.8%、HAにおいて1.2%とされている。SSIは、入院日数の延長・再入院や再手術につながる。SSIが発生した患者の入院日数は約2倍となり、人工関節の再置換なども含めると 費用は約4倍となる。
最適な麻酔法ははっきりとはしていないが、多くのデータを分析した結果、脊柱管麻酔をKAもしくはHAの患者に使用することの優位性が示された。この優位性は、合併症を多く持つ患者に特にみられた。さらに、HA患者に対するランダム試験を体系的に見ると、血栓予防としての麻酔法は、死亡率・心血管系の疾病率・DVTや肺塞栓症の発生率にも影響を与えた。より最近のメタ分析が同様の結果を示しているが、術後のSSIの発生率に焦点をあてたものはなかった。
脊柱管麻酔がどのように術後SSIの発生率を抑えるかは明確には分かっていないが、脊柱管麻酔には、この結果を裏付ける生理学的な利点がある。Sesslerらによると、脊柱管麻酔が周術期の感染を減らす事に関して、3つのメカニズムがあるという。1)手術に対する神経分泌反応や炎症反応を調節・減衰する事、2)組織の酸素化を増強する血管拡張を起こす事、3)周術期の鎮痛により血管収縮を減らし、その後の末梢循環を改善する事である。他の研究では、脊柱管麻酔は失血や輸血量の減少にも関連すると言われており、脊髄くも膜下麻酔は全身麻酔に比べて、術後の高血糖を防ぎ、KA・HA後のSSIの割合を減らしていると言う結果もある。結果として、脊柱管麻酔に使用される局所麻酔は、細菌増殖を抑制する特性により術後の感染率を減少させていると思われる。
さらに、それぞれの研究において追跡期間やSSIの定義による変動性がある。すべての研究の質は、それぞれ高い基準の評価に基づいており、本分析での編集における偏りはない。ランダム効果モデルと感度解析を用いることにより、区域麻酔と術後SSIの関連をできる限り正確に算出した。この見解のもっとも重要な制限は、もしかすると研究に含まれる観察の性質であるかもしれない。再分析された結果を解釈すると、患者個人の要素が麻酔法だけでなくSSIの発生に影響していると考えることが出来る。この制限を加えることで、区域麻酔とKA・HAに関連する術後SSIの関係を明確に確立する根拠となる、より質の高い無作為試験となるだろう。
著者らは麻酔法と術後SSIの発生の関連を説明するためにメタ分析を行った。結論として、全身麻酔に比べて脊柱管麻酔の使用はKA・HA後のSSIの発生を著明に減少させるというものであった。より大規模な観察試験による無作為化試験を使用した、更なる調査が行われると より詳細な結果が得られるであろう。

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